●「鱗宮交響曲」初演のお知らせ
歌舞伎
義経千本桜・「渡海屋の段」のハイライト。
イーマーゾーシールー
ミーモースーソーガーワーノー
ナーガーレーニーハー
ナーミーノーソーコーニーモー
ミーヤーコーアーリートーハー
(今ぞ知る 御裳裾川の流れには 波の底にも都ありとは)
儚きおらびを奏でつつ、
典侍の局と共に、大海原の千尋の底に、(再び)沈まむとする幼帝・
安徳。
* * *
その原典は言うまでもなく、
平家物語・"先帝身投"の段。
壇ノ浦にて進退窮まった平家の御舟、その上には
安徳帝を抱いた
弐位殿。
「尼ぜ、われをばいづちへ具してゆかむとするぞ」
あどけなく訊ねる幼帝に、弐位殿泪を堪え、
「浪の下にも都のさぶらふぞ」
と慰めつつ、無常の春風に散る花の如く、深き水底へと入水する。
ちいさくうつくしき御手をあはせ、まづ東をふしおがみ、伊勢大神宮に御いとま申させ給ひ、其後西にむかはせ給いて、御念仏ありしかば、二位殿やがていだき奉り、「浪の下にも都のさぶらふぞ」となぐさめたてまッて、ちいろの底へぞ入り給ふ。 (〜『平家物語』巻十一"先帝身投"[岩波文庫])
* * *
身に沁む「無常」を思わずにはおられない、これまで数多の"日本人"が泪してきた、痛ましさこの上なき名シーン。
否俟、
ほんの少し視点をずらせば、
幼帝入水の"悲劇"をもって、これを只管に
"哀しい場面"
と決め付けるのは、いささか早計である、かも知れない。
* * *
というのも・・・
(貳)
©HIRANO Ichiro 2010