●〈ISCM世界音楽の日々2008〉入選のお知らせ
宮子姫=髪長姫伝説に連なる
道成寺創建譚には、霊樹=
楠(クスノキ)が登場する。
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雨の日になると故郷を恋うて嘆き悲しむ海人の娘、オンディーヌさながらの憂いに満ちた宮子姫を慰めるため、文武帝の勅命により、紀道成(きのみちなり)卿が建てたのが、「道成寺」。
道成寺そのものはいざ知らず、道成寺周辺の伝承の中には、
道成卿は、伐ってはならない或る神聖な楠を伐ったため、祟りにあって日高川に没した。(紀道神社伝承/梅原猛『海人と天皇』参照)
という不気味なエピソードが、しばしば挿入されるのだ。
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楠と言えば、樹の國=紀州には縁深い霊樹。
至る処に古い楠の伝承が散らばり、今も祀られる土地柄。
熊野本宮の御神木が楠なら、
あの南方熊楠翁も、
楠を名乗っている訳である。
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なるほどそういえば、
月ハ程ナク入リ汐ノ 煙満チ来ル 小松原・・・
と、謡曲にも登場する道成寺のお膝元、
小松原のとある場処にも、曰くありげな
老楠(樟)が枝を張っていた。
この辺りの人々にとって楠は、
今も変わらず、
何かしら特別な存在であるに違いない。
(10)に続く
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©HIRANO Ichiro 2008