委嘱新作、
いそぽのふゎぶらす
ESOPO NO FABVLAS
〜語りと木管五重奏による
天草版 伊曾保(イソップ)物語〜
Aesop's Fables in Amakusa-style
for Narrator & Wind Quintet
の草稿が本日、完了した。
* * *
「イソポのファブラス」とは、あの「イソップ物語」のこと。
古代ギリシャの解放奴隷アイソーポス(イソップ)の生涯と、そのイソップが人々に語り伝えたとされる動物(及び人間)寓話集から成る。
今日では"イソップ童話"としてオコサマ向けに多少牙を抜かれたものもしばしば目にするが、元来は大人にも突き刺さる辛口の処世訓と逆説が閃く、厳しい認識と反骨に貫かれた文学である。
* * *
日本の"イソップ"は文禄年間(16世紀末)、九州・天草のコレジヨにて、人々の"キリシタン"教化と欧語教育、それに宣教師の日本語学習を兼ねて、"南蛮"(ポルトガル)文字によって日本語訳された、この「イソポのファブラス」が最初。
いち早くコレジヨに取り入れられたグーテンベルク印刷機を用いて、日本最初の活版印刷により大量発行された「イソポのファブラス」は、他ならぬ"ローマ字"というものの事始めであり、徹底したその表音主義のお蔭で、当時の話し言葉を今に伝える、実に貴重な国語資料でもあるのだそうだ。
そして言うまでもなく、"キリシタン"禁制の江戸期にも南蛮風を隠す見事な擬態によって流布した、あの
伊曾保物語(いそほものがたり)の種本。
明治期に先駆けて、日本における洋語翻訳文学もまた、正にここから始まっていた、という訳。
当方としては、
モノオペラ〈邪宗門〉の世界から思いがけず零れ落ちた、幾つかの新しい種を土に根付かせていたところ、そのうちの一つが早々と発芽し、見る見るうちに育ってしまった、という感じ。
* * *
浮世の権威と権勢がその建前ごとガラガラと失墜し、今日明日の日常も侭ならない、という危うい気運で妙に浮き足立ったこの時勢。
勇まし過ぎる閧の声でも、一時しのぎの"癒し"でもない。
こんな時こそ、世の真実に裏打ちされた、不撓不屈のユウモアを。
自らの死すら教訓の種として笑い飛ばした伝説の賢人
アイソーポスに学べ!
という訳で・・・
* * *
新作「いそぽのふ
わぶらす」、
作品及び初演の詳細、魅力溢れる語り手&演奏家諸氏の事など、遠からずご案内の予定。
とりあえず、乞うご期待。
©HIRANO Ichiro 2011