児童合唱とオーケストラの為の新作、
出雲國の神話・伝承・風土に拠る連作
交響神樂 第三番
カガミノフネ
羅摩船
の初稿、ついさきほど完成しました!
《連作交響神樂》は、「出雲の春音楽祭」芸術監督・中井章徳氏率いる出雲芸術アカデミーの皆様との協働。今春三月、第一番〈国引(クニビキ)〉の忘れ難く素晴らしい初演でその門出を飾って頂いたところ。
壊れたスケルツォ。
その続編となる第三番〈羅摩船(カガミノフネ)〉は、天の神様の指の間からこぼれ落ち、ガガイモで造った小さな船に乗って出雲國にやって来た、極小の神スクナビコナを巡る物語。
神話の中では、"天の下所造らしし大神"二柱の一として、オオナムヂ(オオクニヌシ)と並び賞されながらも、粟の穂に弾かれてあっけなく常世の国に旅立ったという、謎めいた、でもどこかしら愛らしい神様。
その神の姿と風土の不思議な結びつきを、民俗伝承の深みから掬い上げた音霊を通して、児童合唱とオーケストラが奏でます。
無垢で残酷で美しく儚い、ムシやコドモ=小さきモノの眼に映る、もうひとつの神話世界。
46段46頁。
作曲の過程は、すばしっこくたくましいスクナビコナらしく軽やかに「お先に失礼!」という感じで、オドロオドロしくわだかまる第二番〈遠呂智(ヲロチ)〉をひょいと追い越して産まれて来ました。とはいえもちろん楽々というわけではなく、八月に入っても様々な予定に追われて没頭する時間がとれず苦心しましたが、最後のこの三日間は文字通り寝食を忘れて〈羅摩船〉の世界に浸り込み、異例の早さでの初稿完成となりました。
あ、Fineがない。。。
ここからまだまだ校正推敲、ヴォーカルスコア作成、パート譜作成、そして第二番〈遠呂智〉作曲と、作業は果てしなく続きます。でもこんなに幸せな苦しみは希ってもない!とあらためて運命に感謝。
(初演予定は第二番ともども来春3月18日《出雲の春音楽祭2018第一日》出雲大社近くの
大社文化プレイスうらら館にて。)
まずは関係者の皆様、乞うご期待。
すくなのかみさん みイつけた!
※写真は、冷房のない薄暗い居室に閉じ籠った三日を終えてふと窓を観ると、伸び過ぎた南天の葉が曇り硝子越しにそっと覗いていた、の図。
* * *
以下は、「邪宗門」以来の当方の心の師・北原白秋作の、戦時中に書かれたという"忘れられた"童謡です。
本作の構想当初、その世界観形成への、大いなる励みとなりました。
少彦名
豆の、小豆の蛾のやうな
少彦名の命さま、
すつとつかまる粟の穂に、
粟が撓んだ、弓のやう。
りりんりりんと鈴蟲も
鳴いて連れます、夕燒に。
そこで、ひとはね、粟の莖、
少彦名の命さま、
ぱつとはじかれ、飛びあがる。
露といっしょに、飛びあがる。
りりんりりんと蟲のこゑ、
白い月夜になりまする。
豆の小豆の、蛾のやうな
少彦名の命さま、
雲に消えます、のぼります。
粟はまだまだ揺れてます。
りりんりりんと鈴蟲も
鳴いて連れます、秋かぜに。
©HIRANO Ichirô 2017