あっと言う間に、もう大晦日。
ことし最後のお仕事は、北近畿唯一の四年制、創立間もない福知山公立大学の大学歌そして応援歌、その契約書の返送作業。
今を去る初夏の頃、合唱界のとある名指導者より打診頂き、秋ごろ交響神樂第二番〈遠呂智〉と平行して一気呵成に完成した一対の曲、「光よ 雲よ」と「はしれ、とべ!」。
福知山公立大学・大学歌
光よ 雲よ
福知山公立大学・応援歌
はしれ、とべ!
打診を受けた当方の中で即座に閃いた当プロジェクトのコンセプトは、
新たなる、公【おおやけ】の歌。
大げさに言えば明治維新以来というべきか。あまねく充つる"普遍性"(喩えるならばCatholic)一辺倒の世情に抗し、置き換えられない風土的特質をたしかに孕む"真正性"(喩えるならばOrthodox)を対置し、遺恨に満ちたその相克を「光/剣」と「雲/鬼」という対の象徴に籠め、源頼光と酒呑童子の物語(遡れば太古以来重層する鬼伝説)がいまも息づく当地にて、人々の声に託して鳴り響かせようという企て。
作曲に先立ってまずは言葉。作詞は他ならぬ伊東恵司氏。どちらからともなく自然に定まった「光」と「雲」という一対のキーワードを軸に、まずは原案を送って頂き、そのあとは一つ一つの韻・律から種々の用語に至るまで当方からも徹底的に意見・提案・推敲を重ねて、濃密なる協働のもと、静と動・好一対のテクストを織り上げました。
言葉が決まると次は音楽。目指したのは、明治以来の軍楽調や近年よく聞くポピュラー風と一線を画し、三和音を一切使わずして人々の心を直に震わせる調べ。
太古の神話・伝説に端を発する苦難の歴史に育まれた、其の地の精神/風土に相応しい(とたしかに感ずる)音を刻み、響きを纏わせました。
大学歌・応援歌とも、斉唱または混声四部で、アカペラ、ピアノ伴奏付、簡易伴奏付練習用の3ヴァージョン。
初お披露目は三月下旬、同大学の卒業式にて、地元・福知山混声合唱団の皆様によって行われるとのこと。
第一義的には大学の歌。
まずは学生・卒業生・教職員の皆様の心に根付く事こそ大切ですが、ひいては丹波丹後の精神歌として、深く、広くそして永く歌い継がれてゆくことを、作曲者として願っています。
丹後宮津の自宅のリビングを閑かに彩る、丹後印象派・福岡清氏の大江山風景。
あの山の向こうが福知山。
(c)HIRANO Ichirô2017