日本列島文化の古層には、様々な渡来文化の痕跡が、あたかも固有の土着文化のような顔をしながら、無数に堆積している。
それは考古学や言語学の世界のみならず、音の世界でも同様である。
それらの堆積の総体をして初めて、「日本文化」というものが成立している、ということは今さら言うまでもない。
とはいっても、各地の祭礼とその音楽を探索して来た私にとって、そうした考えは単に書物や伝聞による一般論としてではなく、様々な出会いと発見の中で、実感を伴いつつ次第に成長して来たものでもある。
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列島文化の古層に堆積する「異国的なるもの」を巡っての、様々な編成のための連作が、蠢動しつつある。
蜃氣樓
SHINKIRO
-a cycle for various instruments-
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因みにこの「蜃気楼」なる現象、江戸の妖怪絵師・鳥山石燕の『画図百鬼夜行全図』にも、いわば妖怪変化の一種として紹介されている。
史記の天官書にいはく、海旁蜃気は楼台に象ると云々。蜃とは大蛤なり。海上に気をふきて、楼閣城市のかたちをなす。これを蜃気楼と名づく。又海市とも云。(鳥山石燕著『画図百鬼夜行全図』/角川文庫)
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連作「蜃氣樓」シリーズ、その第一弾・無伴奏フルート作品を先導としつつ、遠からず始動の見込みである。
海中の大蛤の吐息から、いかなる幻影が浮かび上がるのか、乞うご期待。
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