いくら非・日乗とはいえ、もはや旧正月を目前にして何とも時節外れではあるが、今年最初の話題を一つ。
しばしお許しのほどを。
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去る正月朔日、播磨在住のとある先達の粋な計らいで、兵庫県は姫路城を訪れた。
そういえばここは、あの泉鏡花「天守物語」の舞台。
遠目に見る白鷺城、その調和と均整のとれた姿は、まさに壮麗そのもの。
しかし本丸へと近付けば近付くほど、シンメトリーとアシンメトリーの複雑な組み合わせに、次第に方向感覚を失っていく、ここは迷宮でもあるようだ。
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ふと見ると、城の周りを取り囲む門の一つ「へノ門」の瓦に、池田輝政の家紋「揚羽蝶」が舞っている。
確か私の家では、平家落人伝説と共に揚羽蝶の女紋を伝えていたような・・・などと記憶を辿っていると、はっと思い至ったのは例の「天守物語」・桃六の最後の台詞
世は戦でも、胡蝶が舞う・・・
の一節。
なるほど確かに、ここには胡蝶が舞っている。
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いよいよ本丸に入り、白鷺の薄暗い腹中をぐるぐると昇るにつれ、私の中の妄想もまた物語の渦に巻き込まれてゆく。
次第に狭くなる螺旋状の空間をくぐり抜け、最後の急な梯子段を上がり、ようやく天守へと到着した。
と、そこには祠が鎮座していた。
もしや、と思って、その祭神を確かめてみて、びっくり。
姫路長壁(刑部)大神
の隣に、
播磨富姫大神
の名。
当の「天守物語」の主人公、天守夫人・富姫が、しっかりと祀られているではないか。
この二神、姫路城のある姫山に古くから棲まう地主神とのこと。
民間伝承と「耽美文学」との臍帯を、かくもはっきり目の当りにしようとは。
ご存じの方は何を今さら・・・というところであろうが、正月早々、現実と虚構との妙なる境界での空中散歩、さらにそこでの物語の主人公との思わぬ邂逅は、私にとって何とも格別なものであった。
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てな訳で私の2007年は、天守の神様への初詣、から明けることと相成った次第である。
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