●お知らせ●
衢
CROSSING
〜古典と新作による無伴奏チェロ・リサイタル〜
2007年10月27日(土)
草履隠し ちゅうねン坊
橋の下の 鼠が
草履を銜えて ちゅッちゅくちゅ
ちゅッちゅく饅頭は 誰が喰た
誰も喰わない 儂が喰た
隣のかみさん 三味線屋※
つンつンつンつン 三味線屋
* * *
「草履隠し」という
童唄がある。
厳密に言うと
遊び唄。
地域によって、あるいは年代によって、
「下駄隠し」「靴隠し」となったりもする。
江戸時代に始まり、今に唄い継がれたものである。
上記の童唄の歌詞は、私の記憶の中に埋もれていたもの。
いわば今度は、自分自身がインフォーマントとなった訳である。
※以下の二行、「表の看板三味線屋 裏から回って三軒目」となっている地域が多い。
私自身も幼少の頃、遊んだ記憶がある。
子どもたちが各々の履物を片方ずつ差し出す。
唄いながら拍子にあわせて並べた履物を順々に指差す。
最後に指差された履物の持ち主が、鬼と成る。
鬼が目を塞いでいる間に、子どもたちは各々の履物をあちこちへ隠す。
鬼が皆に囃し立てられながら、それらをひとつひとつ探し出す、そんな遊び。
* * *
この歌詞、筋がある様な無い様な、そこはかとない不気味さを漂わせている。
草履を盗んだ鼠。
鼠殺しの毒饅頭。
間違えて喰ったのは猫だろうか。
三味線屋には猫が付(憑)き物。
隣の三味線屋だけが本当の事を知っている。
あるいは「橋の下の鼠」とは、宿のない貧しい子かも知れない・・・。
とりとめのない言葉とイメージの戯れの中に、近世の村や町の其処此処に開いた、子どもにしか判らない、奇妙な異界への入り口が見えて来る。
* * *
新作
「春巡」は、この童唄に導かれて作曲した。
衢 CROSSING 〜古典と新作による無伴奏チェロ・リサイタル〜にて初演の予定。
祭礼のようなハレの日ではない、ごくありふれた日常の裏側の、もうひとつの
音の原風景・・・来る27日、能楽堂に響く童唄は、どんな世界を導くことになるだろうか。
©HIRANO Ichiro 2007